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NIQO STUDIO
公開日27 min read

AI アプリの技術スタック全体像と主要プレーヤー(毎月更新)

4つのレイヤーと横断的関心事で、主要プレーヤーと選定の比較軸を整理する

CONTENTS+

AI 関連の名前を追っていると、LLM、推論エンジン、ゲートウェイ、エージェントフレームワーク、MCP、ベクトルデータベース、クラウドサービスが同じ文脈で並びます。ただし、これらは同じ役割の競合製品ではありません。ここでは製品名ではなく、責務で分類します。

1つの製品が複数の責務にまたがることもあります。分類は、新しい技術の比較対象と組み合わせを判断する目安として使います。

この記事でわかること

  • AI アプリの技術スタックを4つのレイヤーと横断的関心事に分けた全体像
  • レイヤーごとの役割と主要プレーヤー、選定時の観点・比較軸

まず、AI 基盤全体は次のように大別できます。

大分類役割この記事での扱い
物理・計算基盤GPU、AI チップ、ネットワーク、データセンターなど、計算資源そのものを支える位置づけのみ
学習基盤分散学習、スケジューラ、学習クラスタなど、モデルを学習・更新する位置づけのみ
推論・アプリケーション基盤モデルサービング、ゲートウェイ、エージェント、プロトコル、RAG、オブザーバビリティなど、学習済みモデルを使ってサービスを運用するこの記事の中心
AI アプリケーションコーディングエージェント、チャット、業務エージェントなど、ユーザーが直接使うアプリケーション扱う

全体像:4つのレイヤーと横断的関心事

この記事の中心である推論・アプリケーション基盤と、AI アプリケーションを合わせて「AI アプリの技術スタック」とし、次の4つのレイヤー(モデル層・推論層・エージェント層・アプリケーション層)に分けて見ます。オブザーバビリティ(Observability、可観測性)とセキュリティは、特定のレイヤーではなく横断的関心事として扱います。ユーザーのリクエスト経路を図示します。

flowchart LR
    E[外部のツール・データ<br>他のエージェント]
    U([ユーザー])
    subgraph X[横断的関心事:オブザーバビリティ・評価、サンドボックス、ガードレール]
        subgraph APP[アプリケーション層]
            UI[UI・<br>エージェント製品]
            B[ワークフロー<br>ビルダー]
        end
        subgraph AGT[エージェント層]
            H[フレームワーク<br>ハーネス<br>マネージド実行環境]
            R[(RAG・データ)]
        end
        subgraph INF[推論層]
            G[AIゲートウェイ<br>推論ゲートウェイ]
            S[推論ランタイム<br>サービング]
        end
        subgraph MOD[モデル層]
            M[モデル<br>形式・量子化]
        end
    end
    U --> UI
    UI -->|AG-UI| H
    B --> H
    H --> R
    H -->|推論API| G
    G --> S --> M
    H -->|MCP| E
    H -->|A2A| E
レイヤー責務主なカテゴリ
モデル層(Model)生成・判断モデル、モデル形式・量子化
推論層(Inference)モデルの実行、リクエストのルーティング推論ランタイム・サービング、AI ゲートウェイ・推論ゲートウェイ
エージェント層(Agent)エージェントループ、状態管理、外部との接続エージェントフレームワーク・ハーネス、マネージドなエージェント実行環境、接続プロトコル、RAG・データ
アプリケーション層(Application)エンドユーザー向けの機能、業務ワークフローの構築エージェント製品、ワークフロービルダー、UI
横断的関心事観測・評価、実行時の権限制御、入出力の検査オブザーバビリティ・評価、サンドボックス、ガードレール

これとは別に、ローカル PC、VPS、GPU クラウド、AWS などのクラウドのどこにデプロイするかという「実行環境」の軸があります。以下、下位のレイヤーから順に解説します。

各レイヤーの表では、提供元と製品名が違う場合は「提供元 / 製品」と書きます。提供形態は、OSI 承認のライセンスで公開されているものを「OSS」、独自の条件を付けたライセンスで公開されているものを「ソース公開」、ホスト型のサービスとして提供されるものを「マネージド」、中身を公開せずに配布されるものを「商用」とし、同じ提供元の有償版があれば「+有償版」を付けます。

モデル層

LLM はモデルの一種

LLM(Large Language Model)はモデルの一種です。AI 基盤で扱うモデルには、文章やコードを生成するモデルだけでなく、Embedding、Reranker、画像・音声モデル、判断に特化したモデルもあります。

TypeSafe AI のJevは、チャットモデルではなく、あらかじめ定義された型の選択、スコア、確率などを返す判断モデルとして位置づけられています。

モデルの用途主な出力例
生成モデルテキスト、コード、画像、音声などGPT、Claude、Gemini、Llama、Qwen など
Embedding モデルベクトル各種の Embedding モデル
Reranker関連度のスコア・順位各種の Reranker
判断モデル型付きの選択、スコア、確率TypeSafe AI / Jev

Jev のような判断モデルは、エージェントやアプリケーションのコードから呼び出すコンポーネントです。「どのルートへ送るか」「処理を続けるか」「どの候補を選ぶか」といった分岐判定に使います。

LLM 系統を中心に見ると、主要なプレーヤーは次のようになります。提供形態の「オープンウェイト」は、学習で決まったモデルの中身である重み(weights、パラメータの数値)を公開し、ダウンロードしてローカルで実行できるモデルを指します。学習データや学習コードまで公開されるとは限らず、ライセンスや利用ポリシーで条件が付くこともあるため、オープンソースとは区別されます。

提供元製品提供形態特徴
OpenAIGPTAPI・マネージド汎用生成、Reasoning、ツール利用、マルチモーダル
OpenAIgpt-ossオープンウェイトセルフホストできる Reasoning モデル
AnthropicClaudeAPI・マネージド汎用生成、Reasoning、コーディング、ツール利用
GoogleGeminiAPI・マネージド汎用生成、マルチモーダル、Live など
GoogleGemmaオープンウェイトセルフホスト、ファインチューニング
MetaLlamaオープンウェイトセルフホスト、ファインチューニング、派生モデル
MetaMuseAPI・オープンウェイト(一部のモデル)汎用生成、コード、エージェント用途(Muse Glimmer は Apache 2.0のオープンウェイト)
AlibabaQwenAPI・オープンウェイト(一部のモデル)小型〜大型のサイズ展開、コード、マルチモーダル
DeepSeekDeepSeekAPI・オープンウェイトReasoning、コード、セルフホスト
Mistral AIMistralAPI・オープンウェイト(一部のモデル)小型〜大型モデル、コード、音声・OCR など
Moonshot AIKimiAPI・オープンウェイト(一部のモデル)長いコンテキスト、エージェント用途
Z.aiGLMAPI・オープンウェイト(一部のモデル)汎用生成、エージェント用途
MiniMaxM3API・オープンウェイト(一部のモデル)長いコンテキスト、コード、エージェント用途(後継の M3.1-Flash-Preview を MiniMax Code で先行公開)
NVIDIANemotronオープンウェイトReasoning、エージェント用途

OpenAI も現在は API だけではなく、gpt-oss-120b と gpt-oss-20bというオープンウェイトモデルを、Apache 2.0と利用ポリシーのもとで提供しています。Google にもGemmaがあります。Meta は API で提供する Muse と別に、Muse Glimmerを Apache 2.0のオープンウェイトで公開しています。

そのため、プロバイダー名だけで「API 型」「セルフホスト型」と分けるのは難しくなっています。モデル単位で、API 提供か、重みを取得できるか、ライセンスは何かを確認する必要があります。

この記事では個々の最新バージョンを網羅しません。モデルの更新速度が速いため、ここではファミリーと提供形態を整理し、個別バージョンの性能比較は別の論点とします。

モデル名とファイル形式は別物

モデル名と、モデルファイルの形式は別です。

「Qwen の GGUF を Ollama で動かす」という場合、Qwen はモデル、GGUF は形式、Ollama は推論ランタイムです。

形式・方式概要主な位置づけ
SafetensorsTensor を保存するファイル形式Hugging Face 系のモデル配布
GGUFGGML 系の推論向けモデル形式llama.cpp や Ollama など
AWQ活性値の大きさを見て、重要な重みを守る量子化(重みのみ)GPU 推論向けの量子化
GPTQ層ごとに誤差が最小になるよう重みを決める量子化(重みのみ)低ビット化した GPU 推論

GGUF は量子化済みモデルの配布でもよく見かけます。

量子化は RAM・VRAM の削減に有効ですが、速度、カーネル対応、精度にも影響します。

比較軸

  • タスク性能(コーディング、Reasoning、マルチモーダル)とコンテキスト長
  • 提供形態(API・オープンウェイト)とライセンス
  • コスト(API のトークン単価、セルフホスト時の必要 VRAM)
  • 量子化の形式と、推論ランタイムの対応(GGUF は llama.cpp 系、AWQ・GPTQ は vLLM など)

推論層

推論ランタイムは、ローカル実行向けとサービング向け

モデルの重みを CPU や GPU へ読み込み、実際にトークンを生成するのが推論ランタイムです。

提供元製品提供形態役割特徴
ggml-orgllama.cppOSS軽量な推論ランタイムCPU、GPU、幅広い端末
OllamaOllamaOSS+有償版モデル取得・管理・実行・API をまとめた環境PC、Mac、Linux サーバー
AppleMLX・MLX LMOSSApple Silicon 向けの機械学習・推論基盤Mac
vLLM ProjectvLLMOSS高スループットなモデルサービングGPU サーバーなど
LMSYSSGLangOSS高性能な生成・サービング基盤GPU サーバー
NVIDIATensorRT-LLMOSSNVIDIA 向けの推論最適化NVIDIA GPU
NVIDIANVIDIA DynamoOSSデータセンター規模の分散推論フレームワークGPU クラスタ

Ollama には Apple Silicon 向けのMLX 対応(Preview)も加わっています。MLX で LLM を実行する場合は、MLX LMを使います。

vLLM、SGLang、TensorRT-LLM は、多数のリクエストをさばくモデルサービングの代表的なエンジンです。バッチ処理や KV Cache(過去のトークンの Key / Value を保持し、再計算を省く)の管理で、スループットを上げます。NVIDIA Dynamo は、こうしたエンジンを複数の GPU ノードにまたがって実行するための分散推論フレームワークです。vLLMは OpenAI 互換 API や分散推論を提供し、Apple Silicon 上で並行してサービングするvllm-metalもあります。

AI ゲートウェイと推論ゲートウェイ

「ゲートウェイ」という名前には、少なくとも2つの役割があります。

1つは、複数のモデルプロバイダーの API エンドポイントを統一するAI ゲートウェイ(LLM ゲートウェイとも呼ばれます)。もう1つは、GPU クラスタ内でどのモデルサーバーへリクエストを送るかを決める推論ゲートウェイです。

提供元製品提供形態役割特徴
BerriAILiteLLMOSS+有償版AI ゲートウェイ・ルータープロバイダー差分の吸収、Virtual Key、予算管理、フォールバック
OpenRouterOpenRouterマネージドマネージドなモデルゲートウェイ多数モデルへの統一 API
KongKong AI GatewayOSS+有償版エンタープライズ AI ゲートウェイモデル・MCP へのアクセス、ID、コスト、ポリシー
CloudflareCloudflare AI Gatewayマネージドマネージドな AI ゲートウェイ複数プロバイダーへのアクセスの統一、ログ、キャッシュ、レート制限、フォールバック
Palo Alto NetworksPrisma AIRS AI Gateway(旧 Portkey)マネージドエンタープライズ AI ゲートウェイ統一 API、ガードレール、ガバナンス。Portkey の買収で取得し、元の OSS 版も公開されたまま
AWSSageMaker HyperPod Inference Gatewayマネージド(EKS アドオンとして自クラスタにデプロイ)GPU-aware な推論ゲートウェイKV Cache やキューなどを見て Pod を選ぶ
KubernetesGateway API Inference ExtensionOSSKubernetes 標準の推論ゲートウェイ拡張Gateway API に InferencePool を足し、負荷や KV Cache を見て振り分ける
CNCFllm-dOSSKubernetes 上の分散推論スタック(CNCF Sandbox)Prefix Cache を考慮したルーティング、KV Cache の階層化

LiteLLMは、セルフホストで実行する AI ゲートウェイです。

Kong AI Gateway 2.0は、モデルへのアクセスだけでなく、複数の MCP サーバーを1つにまとめる機能、ID に基づくアクセス制御、コスト管理などを扱います。Kong AI Gateway 2.0は、Kong のマネージドサービスである Kong Konnect で提供されています。

一方、SageMaker HyperPod Inference Gatewayは、GPU-aware なルーターです。KV Cache の使用率、Queue Depth、LoRA アダプター(追加学習した差分の重み)の所在などの推論のシグナルを見ながら、vLLM や SGLang など OpenAI 互換サーバーの Pod へリクエストをルーティングします。

どちらも「ゲートウェイ」ですが、LiteLLM や Kong はアプリケーションから見たモデルへのアクセスの統制、HyperPod Inference Gateway は GPU クラスタ内のリクエストのルーティングに近い役割です。

推論ゲートウェイはクラウドの専用機能だけではなく、Kubernetes でも Gateway API Inference Extension や llm-d のように、オープンソースで標準化が進んでいます。

比較軸

  • 用途(ローカル検証は Ollama・llama.cpp、本番サービングは vLLM・SGLang)
  • TTFT(最初のトークンが返るまでの時間)とスループット(tokens/sec)、複数 GPU への分散
  • 対応ハードウェア(NVIDIA GPU、Apple Silicon、CPU)と OpenAI 互換 API の有無
  • ゲートウェイは、セルフホストかマネージドか(LiteLLM・Kong と OpenRouter)、キー・コスト管理、ルーティング単位(プロバイダー間か GPU Pod 間か)

エージェント層

フレームワークは部品、ハーネスは完成した実行系

エージェントは、モデル呼び出し、ツール実行、結果のフィードバックを繰り返すエージェントループで動作します。

このエージェントループを組み立てるのがエージェントフレームワークや SDK です。加えて、必要なコンポーネントを統合済みの「ハーネス」という呼称も定着しつつあります。

提供元製品提供形態役割特徴
LangChainLangGraphOSS+有償版オーケストレーション・状態管理グラフ、状態、メモリ、Human-in-the-loop
OpenAIOpenAI Agents SDKOSSエージェント SDKエージェント、ツール、Handoff、ガードレール、トレース
GoogleGoogle ADKOSSエージェント開発キットエージェント、ツール、MCP、評価、デプロイ
CrewAICrewAIOSS+有償版マルチエージェント・ワークフローのフレームワークCrews、Flows
LlamaIndexLlamaIndexOSS+有償版データ・エージェントのフレームワークRAG、ツール、エージェント、ワークフロー
AnthropicClaude Agent SDK商用(Python 版は OSS)ハーネス SDKClaude Code と同系統のハーネス
AWSStrands Agents・Strands harnessOSSエージェント SDK・ハーネスモデルの選択、ツール、汎用のハーネス
MicrosoftMicrosoft Agent FrameworkOSSエージェントフレームワークメモリ、ワークフロー、AG-UI、障害からの再開
VercelAI SDKOSSTypeScript の LLM・エージェントツールキットプロバイダー非依存、ストリーミング、ツール、UI 連携
MastraMastraOSS+有償版(一部の機能は独自ライセンス)TypeScript のエージェントフレームワークエージェント、ワークフロー、メモリ、評価

フレームワークとハーネスの境界は厳密ではありません。この記事では、フレームワークをエージェントループや状態管理の構築用コンポーネント、ハーネスをコンテキスト管理、ツール利用、サブエージェントなどを統合済みの実行系として扱います。

Strands harnessは、汎用エージェントを統合済みの状態で、ローカルまたは任意のプロバイダーへデプロイできるハーネスです。

Microsoft Agent Frameworkも、メモリ、ユーザーとの対話的なやり取り(Interactive Experience)、障害から再開できる実行(Resilient Execution)などを備えるようになっています。

エージェントループごと任せる、マネージドなエージェント実行環境

エージェントフレームワークを自プロセスで実行する構成とは別に、長時間実行、コンテキスト管理、サンドボックス、サブエージェントなどをプラットフォームに委譲するサービス(Managed Agent Runtime)が増えています。

提供元製品提供形態役割
OpenAIOpenAI Agents APIマネージド(Public Beta)Codex 系のハーネスと長時間実行のインフラを API で提供
AnthropicClaude Managed Agentsマネージド(Public Beta)構成済みのハーネスと、クラウドまたはセルフホストのサンドボックスを API で提供
AWSAmazon Bedrock AgentCoreマネージドHarness、Runtime、Memory、Gateway、Browser、Code Interpreter など
GoogleGemini Enterprise Agent Platform(Agent Runtime)マネージドエージェントのデプロイ、管理、スケール
MicrosoftMicrosoft Foundry Agent Serviceマネージドエージェントの実行環境、ツール、モデル、オブザーバビリティなど

OpenAI Agents APIは、Codex で使われているハーネスに加え、エージェントを長時間・継続的なセッションで実行するためのインフラ、ファイルやコードを扱うサンドボックス環境などを、マネージドな API として提供します。Anthropic のClaude Managed Agentsも、構成済みのハーネスと、Anthropic のクラウドまたは自社の環境に置くサンドボックスを、API として提供します。

なお、Agents API と Agents SDK は別のものです。Agents SDK はエージェントを組み立てるための SDK、Agents API はそのエージェントループや長時間実行のインフラまで OpenAI 側で実行する、マネージドな実行環境です。

AWS のBedrock AgentCore、Google Cloud のGemini Enterprise Agent Platformの Agent Runtime(旧 Vertex AI Agent Engine)、Microsoft のFoundry Agent Serviceも、エージェントの本番運用向けに、実行環境、メモリ、ツール連携、ID・権限管理、オブザーバビリティなどをまとめて提供します。

MCP はツール、A2A はエージェント、AG-UI は UI

エージェント周辺の接続も、役割別に分化しています。

境界技術主な役割
モデル ↔ アプリケーションTool / Function Callingモデルが呼びたい関数と引数を返す
エージェント ↔ ツール・データMCPエージェントから外部のツール、リソース、プロンプトへ接続
エージェント ↔ エージェントA2Aエージェント同士の通信・タスクの受け渡し
エージェント ↔ ユーザー向け UIAG-UIエージェントとフロントエンドのイベント、状態、操作を接続

MCP のトランスポートは、ローカルのプロセスとは stdio(標準入出力)、ネットワーク越しのサーバーとは Streamable HTTP です。2026-07-28版の仕様では、ステートレス化などリモート運用向けの変更が入りました。

A2Aは1.0が安定版になり、AG-UIも Core / Client が1.0になりました。

この3つは競合ではなく、担当する境界が違います。

MCP と Tool Calling も役割が別です。MCP で集めたツールの定義も、最終的には Tool Calling のツールとしてモデルに渡されます。MCP はツールの取得と実行、Tool Calling はモデルによる呼び出し対象の指定を担います。

RAG は、検索を含む構成全体

RAG(Retrieval-Augmented Generation)はベクトルデータベースそのものではなく、外部情報を検索し、生成時のコンテキストへ加える構成全体です。

提供元製品提供形態役割特徴
pgvectorpgvectorOSSPostgreSQL のベクトル検索拡張通常のデータとベクトルを同じ DB で扱える
QdrantQdrantOSS+有償版ベクトル検索・ハイブリッド検索Dense と Sparse の組み合わせ
LF AI & DataMilvusOSS(有償版は Zilliz Cloud)ベクトルデータベース大規模なベクトル検索
PineconePineconeマネージドマネージドなベクトルデータベースサーバーレス。ベクトルと全文検索を同じインデックスで扱える
WeaviateWeaviateOSS+有償版(一部の機能は独自ライセンス)ベクトルデータベース・検索ベクトル・ハイブリッド検索、ベクトル化モジュール内蔵
ElasticElasticsearchOSS+有償版全文・ベクトル・ハイブリッド検索既存の検索基盤との統合
PostgreSQL Global Development GroupPostgreSQLOSS永続的な状態・メタデータトランザクション、JOIN
RedisRedisOSS+有償版キャッシュ・短期の状態低レイテンシ、TTL

典型的な RAG では、Embedding、検索、必要に応じた Reranking を行い、取得したドキュメントをコンテキストへ入れます。全文検索とベクトル検索を混ぜるハイブリッド検索も一般的です。

エージェントでは検索用のデータ以外にも、セッション、途中の状態、ジョブ、ツールの結果、ファイル、監査ログなどが必要になります。これらには PostgreSQL、Redis、オブジェクトストレージ、キューなど、従来のバックエンド技術も使われます。

比較軸

  • 言語(Python・TypeScript)
  • 状態管理と永続化、マルチエージェント対応
  • モデル依存度(特定プロバイダーの SDK か、プロバイダー非依存か)
  • 実行形態(自プロセスか、マネージドな実行環境か)
  • RAG・データは、既存 DB(PostgreSQL+pgvector)で足りるか、専用のベクトル DB が必要な規模か

アプリケーション層

エージェント製品も、中は複数のレイヤーでできている

フレームワークや実行環境とは別に、タスクを直接委任できるエージェント製品(コーディングエージェントなど)があります。

提供元製品提供形態役割
AnthropicClaude Code商用コーディングエージェント
OpenAICodexOSS+有償版(CLI は OSS)コーディングエージェント
AnomalyOpenCodeOSSマルチプロバイダー対応のコーディングエージェント
GoogleAntigravity CLI(Gemini CLI の後継)商用ターミナルで動くコーディングエージェント
GitHubCopilot cloud agentマネージドGitHub 上で Issue やタスクを受け、非同期に調査・計画・実装・PR 作成を行う
SpaceXCursor商用複数のエージェントを並列で実行できるコーディングエージェント(エディタ・CLI・クラウド)
OpenClaw FoundationOpenClawOSSパーソナルエージェント・ゲートウェイ

Claude Code や Codex はコーディング用のエージェント製品、LangGraph や Agents SDK はエージェント構築用の基盤です。

エージェント製品の内部にも、モデル、ハーネス、Tool Calling、MCP、サンドボックスなど、下のレイヤーの技術が入っています。部品を組み込んで完成させた製品なので、この記事ではアプリケーション層に置きます。製品名だけでなく内部構成まで把握すると、何と比べるべきかが見えます。

業務フローにエージェントを組み込むビルダー

エージェントや RAG を組み合わせて、業務で使うアプリケーションやワークフローを構築するプラットフォームです。業務ワークフローとエージェントを同一画面で構築・運用するため、フレームワークとも UI とも別カテゴリとして扱います。

提供元製品提供形態役割
LangGeniusDifyソース公開+有償版エージェント・ワークフロー・RAG のアプリケーション基盤
n8nn8nソース公開+有償版ワークフロー自動化+エージェント
IBMLangflowOSSビジュアルなエージェント・ワークフロービルダー
MicrosoftMicrosoft Copilot Studioマネージドローコードでエージェントとワークフローを構築し、Microsoft 365や Teams に公開する
GoogleGemini Enterprise(Workflow Builder)マネージドノーコード・ローコードでチャットエージェントとワークフローを構築する

Dify はエージェントとワークフローを同じプラットフォーム内で扱い、セルフホストにも対応します。

n8n はワークフローの自動化が中心ですが、n8n Agentsではエージェントが既存の n8n のワークフローをツールとして使えるため、決定的なワークフローとエージェントの非決定的な処理を、同じプラットフォームで組み合わせられます。

大手クラウドでは、Microsoft Copilot Studio や Gemini Enterprise の Workflow Builder が、業務担当者も使えるノーコード・ローコードのビルダーを提供しています。

UI は、エンドユーザー向けフロントエンド

モデルやエージェントの利用 UI も独立したカテゴリです。

提供元製品提供形態役割
Open WebUIOpen WebUIソース公開+有償版セルフホストの AI UI・プラットフォーム
ClickHouseLibreChatOSSマルチモデル対応のチャット・エージェント UI
Mintplex LabsAnythingLLMOSS+有償版AI ワークスペース

Open WebUI、LibreChat、AnythingLLM は、モデルへの接続だけでなく、RAG、ツール、エージェント、ユーザー管理など複数の機能を持っています。

Dify や n8n などのビルダーは開発・運用基盤、Open WebUI などはエンドユーザー向けの利用環境という区分です。ただし製品機能は重複します。

比較軸

  • 対象ユーザー(開発者、業務担当者、エンドユーザー)
  • セルフホストの可否
  • 接続できるモデルとツール(MCP 対応の有無)
  • ユーザー・権限管理

横断的関心事:オブザーバビリティとセキュリティ

オブザーバビリティは挙動、評価は出力の品質を見る

AI アプリケーションでは、通常の CPU、メモリ、レイテンシ、エラー、ログに加えて、プロンプト、トークン数、コスト、ツール呼び出し、エージェントの実行ステップなどを観測します。

提供元製品提供形態役割
ClickHouseLangfuseOSS+有償版LLM・エージェントのトレース、プロンプト、トークン、コスト、評価
LangChainLangSmithマネージドLLM・エージェントのトレース、評価、監視
BraintrustBraintrustマネージド評価と、本番のトレースの分析
CNCFOpenTelemetryOSSトレース、メトリクス、ログ
CNCFPrometheusOSSサービス・インフラのメトリクス
Grafana LabsGrafanaOSS+有償版メトリクス、ログ、トレースの可視化
Promptfoo(OpenAI が買収を発表)promptfooOSS+有償版評価、レッドチーミング(プロンプトインジェクションなど)
Vibrant LabsRagasOSSRAG の評価指標、テストデータ生成
Confident AIDeepEvalOSS+有償版pytest 風に書く LLM の評価

このほか、OpenAI Agents SDK などのエージェント SDK にも、Run、Tool Call、Handoff などを記録する組み込みのトレースがあります。

オブザーバビリティは「何が起きたか」を見るものです。評価(Evals)は、モデルやエージェントの出力をテストデータと採点基準で測るもので、回答の正確さ、RAG の検索結果の妥当性、タスクの達成、プロンプトインジェクションへの耐性などが対象です。

エージェントが触れられる範囲を、実行時に制限する

エージェントがコードやシェル、ファイル、ネットワーク、認証情報を扱うようになると、エージェントが何にアクセスできるかを実行時に制限するレイヤーも必要になります。一般にサンドボックスと呼ばれます。

NVIDIA のOpenShellは、Claude Code、Codex、OpenCode などのエージェントをサンドボックス内で実行し、ファイルシステム、ネットワーク、プロセスにポリシーを適用し、認証情報は承認した接続先にだけ渡します。NVIDIA はこれを、エージェントのための安全なランタイム(secure runtime)と説明しています。

OpenAI Agents API のホスト型サンドボックスのように、マネージドなエージェント実行環境そのものがサンドボックスを内包する場合もあります。このためサンドボックスは、単独の製品として提供される場合と、マネージドな実行環境の一機能として提供される場合があります。単独の製品として提供される主なサンドボックスは次のとおりです。

提供元製品提供形態役割
NVIDIAOpenShellOSSコーディングエージェントを、ポリシーを適用したサンドボックス内で実行する
E2BE2BOSS+有償版エージェントが生成したコードを、隔離した環境で実行する
ModalModal Sandboxesマネージド信頼できないコードを、隔離したコンテナで実行する
DaytonaDaytonaマネージド(OSS 版は2026年6月に保守を終了)AI が生成したコードの実行、Computer Use
VercelVercel SandboxマネージドmicroVM で、信頼できないコードを隔離して実行する
CloudflareCloudflare Sandboxesマネージド使わないときはスリープし、状態はスナップショットで復元するコンテナ型のサンドボックス

ガードレールは、入出力を検査する

サンドボックスが「何に触れられるか」を制限するのに対して、ガードレールはモデルやエージェントの入出力そのものを検査します。プロンプトインジェクションやジェイルブレイクの検知、有害な出力の分類、話題の制御などが対象です。

提供元製品提供形態役割
NVIDIANeMo GuardrailsOSS入出力のモデレーション、ジェイルブレイク検知、話題の制御をプログラムで定義するツールキット
MetaLlama Guard 4オープンウェイトテキストと画像の入出力を安全・危険に分類する安全分類モデル
AWSAmazon Bedrock Guardrailsマネージドコンテンツフィルター、拒否トピック、機密情報の検出、グラウンディングの検査。ApplyGuardrail API で Bedrock 外のモデルにも使える
MicrosoftAzure AI Content Safetyマネージド有害なコンテンツの検出と、Prompt Shields によるプロンプト攻撃の検出
GoogleModel Armorマネージドプロンプトと応答から、プロンプトインジェクション、機密データ、悪意ある URL を検出。Google Cloud 以外の環境でも使える

ガードレールは、大手クラウドのマネージドなサービスのほか、Kong などの AI ゲートウェイやマネージドな実行環境に組み込まれている場合もあります。

データがどこで処理・保持されるかを確認する

モデルの API に送った入力は、学習に使われなくても、不正利用の監視などのために一定期間保持されることがあります。また、同じモデルでも、提供元と推論の設定によって、処理される地域が変わります。

確認すること内容
学習への利用API の入出力は、既定では学習に使わない事業者が多い(OpenAI、Anthropic)。同意やフィードバックの送信など、例外を誰が有効にできるか
保持期間既定の保持期間(OpenAI は30日、Anthropic は30日以内に削除)と、モデルや機能による例外
ZDR(Zero Data Retention)保持しない設定。申請・承認制で、ファイルやバッチなど状態を持つ機能は対象外(Anthropic)
処理地域保存する地域と推論する地域は別。Global の設定は処理地域を保証しない(Amazon Bedrockの Global は、任意のリージョンで処理する)
契約の相手方同じモデルでも、API を直接使うかクラウド経由かで、データを扱う事業者と規定が変わる(Claude を Bedrock で使う場合は AWS の規定)

たとえば Claude Opus 5.5は、Anthropic の APIでは推論地域に米国か Global を指定します。Amazon Bedrock では、日本国内で処理するJP geo の推論プロファイルを指定できます。

比較軸

  • OpenTelemetry 対応(既存の監視基盤と統合できるか)
  • 評価の運用形態(リリース前のオフライン評価か、本番トラフィックのオンライン評価か)
  • ガードレールとサンドボックスの適用位置(ゲートウェイ、実行環境、アプリケーション)
  • データの扱い(学習への利用、保持期間、ZDR の可否、処理地域)

実行環境

次に、ここまでのソフトウェアを実際にどこへデプロイするかです。

実行環境特徴配置するものの例
ローカル PC / Macローカルで開発・推論しやすいOllama、llama.cpp、エージェント開発
自宅サーバーハードウェアを所有するGPU 推論、セルフホストのアプリケーション
VPS常時稼働しやすい CPU・メモリの環境ゲートウェイ、MCP サーバー、エージェント、UI、DB
GPU VPS / GPU クラウドGPU を外部で利用するvLLM、SGLang、モデルサービング
AWS / Azure / Google CloudIaaS からマネージドな AI まで幅広い各レイヤーを組み合わせた基盤
マネージドな AI プラットフォーム複数のレイヤーをサービス側が提供するモデル API、エージェントの実行環境、RAG、ガードレールなど

実行環境はレイヤーの分類とは別です。LiteLLM はローカル、VPS、Kubernetes のいずれにもデプロイでき、vLLM も自社の GPU クラスタや GPU クラウドで実行できます。

一方、AWS、Google Cloud、Microsoft のマネージドな AI プラットフォームは、この記事で分けた複数のレイヤーを、1つのサービス群として提供します。製品同士を比べるときは、「どのレイヤーまで含んでいるか」を揃えて比べます。

比較軸

  • コスト(常時稼働の固定費か、利用量に応じた従量課金か)
  • GPU の確保(手元のハードウェアか、GPU クラウドか、マネージドな API に任せるか)
  • 運用の手間(OS・ランタイムの更新、スケール、障害対応を誰が持つか)
  • データの置き場所(自社環境に閉じるか、クラウドのどのリージョンで処理するか)

選定時の観点

各レイヤーの比較軸とは別に、レイヤーをまたいで確認する観点です。

観点確認すること関係するレイヤー・比較軸
コスト初期費用と月額、利用量が増えたときの伸び方モデル層(トークン単価)、推論層(GPU)、実行環境
データの扱い入力したデータがどこで処理・保持され、学習に使われるか横断的関心事(データの扱い)、実行環境
品質とリスク誤った出力をどう検知し、効果をどう測るか横断的関心事(評価、ガードレール)
ロックイン別の製品やモデルへ移るとき、どこを作り直すか推論層(AI ゲートウェイ、OpenAI 互換 API)、エージェント層(接続プロトコル、マネージドな実行環境)
継続性提供終了や価格改定のとき、何を見直すかモデル層、エージェント層
運用体制誰が運用し、障害時に誰が対応するか実行環境(セルフホストかマネージドか)

まとめ

AI アプリケーションを構成する技術は、モデル・推論・エージェント・アプリケーションの4つのレイヤーと、オブザーバビリティ・セキュリティの横断的関心事として整理できます。各レイヤーの中でも、ゲートウェイ、ハーネス、マネージドな実行環境、接続プロトコル、ワークフロービルダーと、役割が細かく分かれてきています。

一方で、実際の製品は複数の役割をまたぎます。新しい製品や技術が出てきたときは、「何の代わりになるか」だけでなく、どの境界を担当し、前後に何を必要とするかを見ると、位置づけが明確になります。

この分類は固定ではなく、新しい製品やバージョンに合わせて改訂します。

参考資料

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WRITTEN BY竹原みつきQA・ソフトウェアエンジニア→ソフトウェアの開発とテストの両方に携わっています。リソースの暴力が実装の常識を変えたように、AI は検証も変えていく。開発のボトルネックは、現実からフィードバックを得ることへ移ると考えています。